侵入者。

 前日、既に予兆はあった。
 ウチの課の全体会議のために会議室の準備をしていたところ、何故か室内に鳥のフンが落ちていたのだ。
 会議室の窓が前夜から開けっ放しだったという目撃談があって、恐らくそこからスズメかカラスでも入り込んだのだろうという結論に至った。
 
 そして今朝。
 日課であるバックアップジョブ確認のためI君がサーバ室へ向かったが、何故かすぐ戻ってきた。
 使っていないカレンダーをバットのように丸めて振り具合を確かめながら、当惑した表情で彼は言った。
 「…あの…、サーバ室に、ハトがいるんですけど」
 I君と二人でサーバ室に踏み込んだ俺の目の前に、丸々と太った鳩が佇んでいた。
 

 
 そいつは、何を探すふうでもなく、まるで散歩の途中だとでも言うような表情でネットワーク系ラックの脇をうろうろと歩き回りながら、時折こちらをチラ見して様子を窺っている。
 I君はどうやら先程のカレンダーバットでハトをつつきながら部屋のドアから外へ追い出そうというつもりらしい。
 別に噛み付かれる心配もない。俺はそいつの背後にある窓を開けてそいつににじり寄った。すると案の定、窓際に追い込まれたそいつはバタバタと羽ばたきながら飛び上がり、やがて窓から外へと出て行った。
 一件落着とばかりに退出しようとした俺の足元を、そいつそっくりの別のハトがヒョコヒョコとすり抜けて行った。
 もう一羽かよ…。
 同じようにして追い出し、今度こそ終了。
 我々はその後、床を這いつくばって奴らの粗相の痕跡がないか調べるはめになった。