雪割草を求めて。

 その後、帰宅前に職場に行くと、別部門の先輩が昨日さる場所で雪割草を見てきたという。
 彼が行った場所は昔から群生地として有名らしいが、自分はまだ見たことがない。
 終日ヒマなので、ブリットでドライブがてら出かけてみた。
 もちろん写真も撮るつもりだが、EF50mmF1.8とか実家に置きっ放しだったよな…。
 
 道中は暴風が止む気配がなく、そのうち雨まで降ってきた。行くの止めようかと何度か考えたが、アパートに帰っても寝るだけなので前進。
 現地に近づくとどうやら雪割草の開花に合わせて地元がイベントを開いているようだ。事前に聞いていたのと違い海岸沿いの崖の上が群生地だという。ひたすら激しく波濤打ち付ける海岸と、岸辺に張り付くように人家が並ぶ集落を縫うように走って、その崖への登攀路入り口に到着。
 「登攀路」…。何ですか登攀路って。しかも入り口って、何か漁港の駐車場なんですけど…。
 漁港周辺の海面が泡立って波の花になり、そのまま陸へ吹き上がってくる。皆さんご存じないかも知れないが、「波の花」は言葉のイメージとは全く異なり、かなり汚くてクサいシロモノです。海水中の有機物が散々こねくり回された挙句の塊が飛び回るのだから当然だが。
 着いた時刻は午後も遅く、こんな天候なので他の観光客もいないかと思ったが、県外ナンバーの車が自分に連なって入ってきた。
 幸い雨は止んだが、ドアを開けようとしても風圧でままならない。必死にブリットから降りると海水を含んだ強烈な風で海岸線から叩き出されそうになる。このあたりの集落に住む人は何が良くてこんなところで…。
 せっかく来たのだからと思い、カメラを持って登攀開始。しかし上を見上げても、歩くのは結構しっかりしたハイキング装備の団体か、さもなくばお花畑を見に来た若い女性グループばかり。単独行動で首からGPSロガーとカメラをぶら下げたオッサンは自分以外に見当たらない。

 しかも予備バッテリの準備をしている間に、他の客は視界外まで登りきったのか誰も見えなくなった。
 慌てて後を追うが急傾斜の登攀路がきつい。左右から暴風が吹きつけ体もふらつく。さっきの若い女の子たちはよく登ったものだ…。

 息を切らせて30分ほど登ったところで、足元にちらほらと雪割草が咲いているのが目に入るようになった。
 しかし。腰を落ち着けて撮ろうにも道は獣道同然で、上から下山者が来ると立っているだけでも邪魔になる。そういう時はじっと撮れるチャンスが来るのを待つのが常道だが、今日はちょっと寒すぎた。
 カメラを構えることはほとんどなく、もう少し人気がない場所を求めて歩き続ける。歩き続けないと暴風で体温を削られて死にそうだ。

 一旦登りきっても沢を越えて再び上り坂。ちょうど疲労で脚がふら付く頃に柵がない絶壁の一本道を歩かされ、その次は日光が入らない熊笹の茂み。たまにまとまって咲く花を見つけても、カメラを構えた途端に嫌がらせのように横殴りの風が吹き始め、タダでさえ暗い中花が吹き散らされんばかりに振り回されてとてもシャッターを切れたものではない。
 茂みの向こうに道がまだまだ続くのを尻目に、まだ少しは陽があるうちにと撤退開始。
 帰宅してから、GoogleMAPでGPSロガーのデータを再生したところ、私の足は全行程のわずか3分の1で引き返していた。
 いやぁ体力なくなってますなぁ。