洗車機の役立たず。

 さて、海からの強風に逆らい這いつくばってブリットに戻ると、ブリットのボディの海側を向いた面が茶色い泡でびっしりとコーティングされており目を疑った。駐車場となっていた漁港の作業場で一番端っこに停まっていた為、まるで他の車の盾になるように飛んでくる波の花を被っていたらしい。
 濃縮した海水をベースに、海草の切れ端とか細かいゴミやちりが練りこまれた塩のペーストを吹き付けられたブリット。すぐ洗いたいが都合よく使わせてもらえる水道などない。
 仕方なくその場は窓だけ拭いて出発。泣きながら数十km走り続け、帰路にあるホームセンターで洗車用バケツとスポンジ、台所用洗剤ジョイの詰め替えボトルを購入して、そこから最寄のセルフスタンドへ立ち寄った。そこに確か洗車スペースがあったはずだ…。
 その自分の記憶は誤っていた。洗車はできるが洗車機だけ。洗車場のスペースでは他の客の迷惑になるので手洗いはご遠慮くださいとあった。
 洗車機は今まで一度も使ったことがない。何せ他の車両から砂や異物をすり込まれたブラシがボディに叩きつけられあっという間に傷だらけになると思っていたので、昔乗っていたカリーナEDの頃から本当に一度も使ったことはなかった。
 夕闇の中説明が書かれた看板を必死に読む。車体の突起物は全て収納して、価格ごとに分かれたコースを選ぶらしい。今の状況なら一番安いボディのみシャンプー300円よりは、車体下面洗浄付きシャンプー500円に決まっている。
 早速ブリットを定位置に収めて機械を動かしてみた。コの字のマシンがブリットを飲み込んでいく。ああ、あのブラシがブリットのボディをバシバシを叩き始めた。今日は黄砂が降ったこともあるのか、天気は悪かったのに洗車機には待ち行列が出来始めていた。背後からのプレッシャーに嫌な汗をかきながら終了を待つ。
 しかし車体下面洗浄はただ高圧スプレーされただけ、シャンプーとすすぎもたった一往復しただけで終了してしまった。
 この暗がりで見ても洗い残しだらけなのがすぐ分かる仕上がりで愕然とするが、次の車が前進してきたので道を明けて仕上げ場へ。
 確かにボディを覆っていた波の花は吹き飛ばされて綺麗になっているように見えるが、ブラシが届かない凹面やウィンドウバイザー内側には全く手付かずで汚れが残っている。我慢できずにさっき買った洗車道具で洗い始めるが、さっき洗車機がすすいだのにまたすすぎが必要になってしまった。洗車機には待ち行列が続き改めて入る余裕はなさそうだし、洗車の客が使える水道ではとても車体を流せるほど水は出せない。
 洗車機がこの程度のものだと分かっていたら、先に洗えなさそうな部分だけでも手洗いしてから機械に入れたというのに…。
 結局、今度はシャンプーの泡をつけたまま、泣きながら家路に着くことになった。
 もう二度と洗車機など使うものか。ふざけるな洗車機め。