他人の仕事。

 最近残業で我が係の帰宅が遅い。22時は早い方で午前様になることもある。
 遅いくせに週末レイトショー観に行ったのかよと言われそうだな。
 いいじゃねぇか一人なんだし。
 まぁ遅いのは遅いのだが、自分の仕事ではない。真向かいに座っている先輩…というよりは上司にも当たる女性の仕事の補助なのだが…どうやら補助ではなく主力になりつつある。
 かなりの量の統計情報を書面で収集して手分けして電子化する。そういう作業だ。何年かに一度はやる作業なので先輩にもノウハウがあるべきなのだが、それがない。
 正確には「ない」わけではないのだが、その先輩がそのノウハウを発揮してくれない。
 悪意があって隠しているのではない。
 ノウハウの伝授に伴って当然発生する作業…これを先輩自身以外の係員に指示するのを躊躇っている。
 指揮権を振るうこと、我々係員に命じて作業をさせることを避けている。我々だけでなく、本来作業に関わるべき他の課員達にも何も指示・指導をしないため、これら課員が行うべき作業までも我々が引き受けている。
 作業の配分、スケジュール定義やそもそもの作業内容まで、先輩自身が判断と指示を下さなければならないのに、それがない。代わりに「こうすれば、いいとは思うんですけどねぇ」と、自分以外の何者かが判断してくれるかのような言を、誰にともなく繰り返す。
 圧倒的な書面の量を前にして全く手数も時間も足りない事は明白になってきた。
 他課員を含め20人以上で行うはずの業務を、我々4人だけでやろうというのだから無理に決まっているのだが、問題はそれだけではない。
 先輩はあらゆる決断を避けている。
 データ提供元への提出期限の案内、仕様の説明、データ収集の基準、はては関係者に配布する資料の文言ひとつに至るまで、先輩は答えを知っているはずなのに主導権を握って動こうとせず、悪化していく状況に疑問や不満を持つ誰かが声を上げるのを待っている。誰かが自分の代わりに業務の主導権を握って勝手に進め始めるのを待っているのだ。
 立場上、どうやらその声を上げるのは俺の役回りらしい。
 困った…。
 俺の仕事も立て込んでいるのだが。