「うん、うん」で口頭注意。

 先任士官D君が出張で終日不在。そんな時に限って、保守工事で業者を受け入れしたりシステム障害が重なったりとバタバタする一日だった。
 そんな中、某課から「ソフトの印刷操作方法が分からないから来てくれ」とTEL。ルーチンどおりの対応として、口頭で一般的な操作方法を説明しようとしたが相手はかなり面倒臭そうに「…いいから、来てよ」。
 電話を聞いていた目の前の上司から「そんな程度の話は自力で解決させんか!」と注意を受けた。なぜ私が注意されるのか…と思いながら現地へ向かう。
 電話してきた職員、仮にA氏としよう…はもうキーボードに触る気もない様子だった。昔同じ職場にいた事があったが、当時からあまり喋らない人というか、話をしていても技術系とは思えないくらい要領を得ない話し方なので、今呼ばれた理由について聞きだすのもかなり骨が折れた。
 『ここ…、うーん、こんなして、こんな風に』(と、紙を手にして指差す)
 「うん、うん」
、『ここと、ここと、こっちと』
 「えーと…?」
 結局、A氏の上司にあたる別の職員がそのソフトで印刷をしたいが希望するフォーマットが使えなくて困っている事を簡潔に説明してくれたので、私はそのソフトがまともに動作する端末をその課室の中から探し出し、ここでならできますと2人に説明して、実際に1枚出力したサンプルで了解を取って退出しようとした…。
 ふと、その課の補佐が私を呼び止めた。A氏がその補佐に提出する書類を作っていたと聞いていたので、別の質問があるのだろうと思い彼のそばへ歩み寄った。
 「はい、なんでしょう」
 『呼びつけておいて何だがなぁ、お前その口の利き方どうなんだ!』
 「はいっ?」
 『誰に口聞いとんのか自覚しとるんか?おい!』
 「あの…私がですか?」
 『うん、うん、てお前どんだけ失礼なんじゃい!』
 「いやあの…それは、大変失礼しました」
 『次から注意しとけや』
 …相槌か?相槌で衆人環視の中叱責されるなんて。少し理不尽ではないか。
 今相手した3人はベテランで私自身も直接部下として仕事をした事がある大先輩だが、それでより注意して相手の話を聞いていたつもりだった…。
 釈然としないが注意は素直に聞いておくのが無難だと思い、そのまま引き下がった。
 
 自分の課に戻ってその話をしたが、皆は一様にその補佐がそこまで怒る事自体が珍しいという。お前、本当はもっと何か失言してたんじゃねーの?と言われたが身に覚えがない。
 『お前、何か前の職場で客相手してた時の調子で話してんじゃない?』
 「ちょっと、イメージできません」
 『だからぁ、職場で後輩からスーパーの店員かコンビニ店員みたいに話し掛けられたらムカツクだろ?』
 「そんなつもりじゃないんですが…」
 『親切ぶってんじゃねーって、思われたんじゃないの?バカにすんな、みたいな感じで』
  確かにそういうことかも知れない。前の職場は客商売だったから言葉遣いには特別気を遣ったが、同時に主要な客層であるところの高齢者から話を聞きだすために積極的に相槌を打つようにしていたし、ややオーバーに肯いてみたりもした。そのうちそれが習慣となっていた。自覚はある。
 「えー…。じゃあ、普段から私の話し方で問題がありそうな感じ、しますか?」
 『まぁ、俺は慇懃無礼ってのを感じないでもないかなぁ』
 「慇懃無礼って言うと、何かもう最初から相手のことは見下してるけど言葉だけバカ丁寧って奴ですよね。私普段はむしろ自分が見下される側みたいな気がしっ放しでいるんですが…」
 『そら受け取られ方だもん。お前がどう思ってるかは関係ない。表情乏しいから誤解されるんだろ』
 『いいか、言葉をどんだけ尽くしても、その場のそいつの表情がなかったら相手には半分も伝わらんのじゃ。ベンダーから障害発生の謝罪があっても、文書1通で終りの時と営業が持参して申し訳なさそうに頭下げるのと違うやろ』
 そりゃそうでしょうが、私ゃ表情乏しいですか?そういう話なんですか?
 注意されたことよりも上司や先輩からそう言われた事でやや落ち込み。