作ってみたが。

 今日は朝から妻が仕事に行き、俺は体の怠さが全く抜けずずっと休んでいた。結局予想通りどこにも出かけなかったのだ。
 いつもは2日以上の休みがあったら必ずどこかへ行こうと思っているのに、たまの休みになればこうだ。
 まぁ体調だけではない。義実家の農作業の手伝いもせずにとか、勝手にフラフラと出歩いてと妻に文句を言われるのが嫌だとか後ろめたさを背負い込んでもいる。普段の付き合いや家事諸々をきちんとこなしていれば気にする必要がないのだが、そういうことで自分の行動意欲を抑止してしまっているのだ。
 N氏やT氏からも連休の予定を尋ねるメールが届いていたが、予定はないが多分出かけないだろうと極めて消極的な返事を出しておいた。
 それでいいのか…。
 
 午後遅くになって妻が帰宅したが、義実家に忘れ物をしたとのことで再び外出。アパートに食材がないので、夕食を義実家で取るから付いて来いと言われたが断った。全く外出する気が起きなかった。
 日が沈んでから何となく空腹を感じ始めたが、ご飯は炊いてあったがおかずがない。それでようやく近所のスーパーへ買物に出かけることとなった。
 いつもなら出来合いの惣菜を買ってきてお終いのところ、今夜は鳥のムネ肉を買ってしまった。
 実は昨夜義弟と話していて、義弟の料理の腕について話が及んでいた。義弟は本当に何でもできる男なのだが、料理もまた中々いい感じである。俺が炊飯程度しかできないと言うと、クックパッドに書いてあることをそのままやればいいのだから簡単だと返された。残念ながら、事前準備を伴う作業に当たる場合に準備が一つ以上あればもはや手を付ける気にならないほど段取りができない俺にはハナから料理に対する意欲がない。
 ところが、実は最近の途切れない疲労感に対して単に食が細いための栄養失調ではないかという気もしていて、牛肉や豚肉のようなくどい物は嫌だが、鶏肉料理でも食べたいなと思い始めていた。鶏のムネ肉なら安いし、俺が嫌いな脂身や皮も少なくていい。それで精肉コーナーを通りかかった時にうっかりパックを手にしてしまっていたのだ。
 買ってきたはいいが、どう料理するかは何も考えていなかった。それでiPadクックパッドの適当な記事を探してみた。油で揚げるような面倒な作業は絶対にお断りだが、単に焼いただけでは味がしないに決まっている。探すのも面倒になってきて焼肉のタレに付けて焼くだけでいいか…と思い始めたところで「ムネ肉の甘酢炒め」を発見した。
 これでいいか。
 ムネ肉のパックを開封したところで、ムネ肉しか準備していない事に気が付いた。材料の項を見ると、片栗粉、醤油にみりん、酢に調理酒などの調味料が記載されている。みりんや酢なんてあるものか…とキッチンのキャビネットを開けてみると、素晴らしいことに記載された調味料全てが揃っていた。というかこれはあって当然のものなのだろうか。よく分からない。みりんや調理酒なんて一体いつ使うのだろう。
 肉以外に玉ねぎも必要らしかったがもちろん買ってない。冷蔵庫を調べたが見当たらないので肉だけでいいかと諦めたが、ふと足元を見ると皮付きの玉ねぎが一つ転がっていた。とにかく材料は揃ったわけだ…片栗粉以外は。
 探してみたが片栗粉だけは見つからなかった。小麦粉ではダメなのだろうか。ホットケーキの粉でもダメか。何のために必要なのか考えたが、ソースにとろみを付けるためらしい。代用品になるものを探すと、主要材料にでんぷんを含む「お好み焼きの粉」を見つけた。これでいいだろう。
 出来上がった「ムネ肉の甘酢炒め」は明らかに甘酢炒めではなかった。醤油を入れ過ぎたのか、あるいはお好み焼きの粉のせいか、加熱時間が長過ぎたのか、味が濃過ぎて食べきることができなかった。
 冷蔵庫に放り込んで数日掛けて消費するしかない。