景気よく遅刻を。

 妻を迎えに行く時刻が迫っていた。
 F氏と別れてブリットを発進させたが、一人の間にどうしても立ち寄りたい場所があった。
 ROUND-1。
 数年前から増えてきたアミューズメント複合施設だが、県都の店舗は開業間もなくボウリングをしに行ったきりだった。
 少し前にWEB上で県内でクレーンゲームが最も充実したゲーセンはどこかと話題になった時に真っ先に名前が挙がったのがラウンドワンだ。
 個人的には複合施設内のゲーセンなぞ、狭いし台数は少ないしで中途半端に決まっていると舐めてかかっていた。
 …変な先入観を持ってしまい大変申し訳ありませんでした。
 行ってみると台数も設定も県内で知る限り最大かつ最良でした。
 これ、他のゲーセンどうなるの???。
 ぶっちゃけ俺ここ通ってまうで…。
 
 中で目を引いたのが、先日富山での血反吐を吐くプレイを目撃した艦これの長門の本体と砲台のセットを収めた台だ。
 よくある空洞コンクリートブロック(中に3つばかり鉄筋を通す穴が空いたあのブロック)を模した発泡スチロールの一番上の穴を通るように台を横断する棒が1本通してあり、スチロールブロックはぶら下がってグラグラ揺れている。その上にプライズが乗った状態で、これが台の中に2組ある。
 それぞれのブロック・プライズの間隔は数cmだけだった。
 これをクレーンでどうにかしてブロックから落とすわけだが、真上から降りるクレーンでプライズの天板を押しても土台になっているブロックが揺れてクレーンの荷重やアームの握力を逃がしてしまうので、プライズそのものは少しもずれる様子がない。
 初めて見る構成だ。
 長門は人気のようで何人ものプレイヤーが挑戦し、揺らすだけでことごとく敗退していく。すさまじい勢いで飲み込まれていく100円硬貨。
 他の台はあまりの取りやすさで景気よく5〜6個のプライズを落としつつ、俺もやってみようかと様子を伺う。プライズを持ち帰るバッグを持ってきてくれた店員に落とし方のヒントを尋ねると「え〜、乗ったプライズの四隅のうち一か所を上から押すとか、横から引っ掻くかすれば少しずつバランス崩してくるんで、そこで大きく揺らすと落ちると思うんですが…」。
 一か所を上から押すと言うが、肝心なアームは最大開度が小さいタイプでどうやってもプライズの化粧箱をくわえ込めない。つまり初期位置では引っ掻くことはできないのだ。台の中のスペアのプライズが一つも減っていないところを見ると少なくとも今日は誰も攻略できていない様子だ。
 先ほどから社会人と思われるヲタ臭漂う男性客の集団が入れ替わり立ちかわり挑戦し、数十回連続で敗退。よほど悔しかったのかチェック柄のリーダー格の男性(まぁ全員チェック柄のシャツだったのだが)は台を睨みつけて下がっていった。
 それでは…。
 今までプレイした他の客は、ほぼ全員が横に2つ並べられたプライズの両方を同時に揺らして失敗していた。まぁどうせなら両方同時に落としたいという気持ちも分かるが、これは罠である。
 化粧箱が大きくよりブロックからはみ出る部分の大きい長門本体を先に崩して落とし、それで空けたクレーンの降下スペースを使って砲台を落とすことにする。予算額は少し高めで両方併せて2000円と見込んだ。
 思った通りで、はみ出た部分だけを狙って上から押すとプライズが中心を軸に大きく回るようにずれ動く。何度か繰り返してブロック上面の長辺とプライズ下面の長辺が丁度45度ほどの角度で交差したところで、ブロック上面から突出した形になったプライズの四隅の一か所を押してやると、多くのプレイヤーを悲嘆に暮れさせた長門はあっけなく落ちた。しかも1000円かかっていない。
 大きめの長門の化粧箱が落ちる音を聞いて、それとなく離れた場所から様子を伺っていた過去の挑戦者達がギョッとした眼で一斉にこちらを見る。流石に恥ずかしいから見ないで欲しい…。
 次の砲台は化粧箱が小さくブロックからはみ出る面積は少ないので上から押しても効果はない。そこで降ろすアームの肘下で少しずつ押し退けていくことにした。これもうまい具合に進みこのまま行けば確実に落とせる目処が立ったのだが、残念ながら予算超過も確実な状態となった。

 決めた予算内で適度に遊びましょう。ということで、後はハイエナに譲ることにして撤退。
 
 …したのは良かったが、ブリットに今日の戦利品を積み込んで時計を見ると何と22時30分。慌ててラウンドワンを飛び出した。妻はどうでもよいが義弟夫婦に大変な迷惑だ。
 義弟宅に着くと既に姪は就寝しており、出てきた妻や義妹は何やら疲れた表情だった。待ちくたびれたに違いないと、とにかく詫びてすぐに妻を連れて辞去した。