踏み間違い。

 終業後。
 医事課オフィス内で、Y君とあるシステム帳票の発行条件の修正について話し合っていると、窓の外から大きな衝突音が響いてきた。
 Y君と正面玄関から外を見ると、正面玄関至近の障害者向けの駐車スペースに前後バンパーを損傷した車が3台停車している。
 その脇に、どうしたものかと途方に暮れた表情の高齢男性が一人立っていた。
 どうも既に駐車中だった2台の隣に原因車両が縦列駐車しようとして勢い余って1台に衝突、衝突された1台はそのまま押し出されて別の1台にも衝突した様子だった。
 男性が原因車両のドライバーだと直感して怪我はないかと尋ねると、幸い低速だったためか特に痛みはないと答えが返って来る。男性の車からもう一人女性が降りてきた。当院に入院中の患者さんのお見舞いのため、夫婦でやってきてこの事故を起こしたと言う。
 「ダンナがなんでブレーキ踏まないでアクセル踏んでるのか不思議で、何してるの?と声かけたんだけど」と奥さんは言った。当のご主人も、アクセルとブレーキを踏み間違えたとあっさり認めた。
 携帯電話を握りしめながらも、これからどうすればいいのか分からない、とご主人が言うので、物損ではあるが本人や同乗者に怪我があって自動車保険を使う場合に備えて事故証明を記録してもらうため警察を呼ぶ必要があると説明した(単純に物損だけなら事故証明は不要のはずだが)。念のため衝突された方の2台を調べたが、中に人はいなかった。
 ご主人が連絡等をお願いしたいと申し出てきたので、その携帯電話を借りて警察へ通報。それからご主人に加入している自動車保険の窓口へ連絡し、事故の概要等を伝えるよう説明。
 冷えきった夜の空気の中、奥さんは先にお見舞いを済ませてもらうため院内へ案内し、ご主人には警察の到着を待つため玄関前で待機してもらう。
 Y君は衝突された方の車の持ち主を探すため院内放送の準備に走ったが、放送が流れる前にそれぞれ持ち主が車に戻ってきた。随分時間が経過してから警察も到着し現場検証を開始。捜査関係事項の照会等で顔を合わせる警察官だった。その場を引き継いで我々は帰宅。