火災現場。

 先日の終業時刻直前、市内で火災が起きたことを知らせる防災無線の放送があった。
 発生したとされる場所は俺のアパートが建つ地区を指していたが、地区は広いので別に心配はしていなかった。
 通常、火災発生の場合は単なる林野火災であるか建物火災であるかも説明があるのだが、その放送は単に火災であるとの内容でしかない。
 ほぼ同時に母親から電話があった。仕事でアパート前を通りかかったところ、何と消防車がアパート前に集結しているのを見たという。しかし煙は見えず火事という雰囲気ではなかったそうだ。
 万一アパートが火災現場だったなら大変だから近所の人に確認するか早退して様子を見てこいと母親は言うが、燃えたら燃えたで仕方がない。人が死んでなければどうでもよいのではないかと思ったので断った。
 電話を切ったのとほぼ同時に、火災鎮火を知らせる放送が聞こえてきた。
 その後数分で話を忘れ、いつもの様にサービス残業を終えて帰宅したのが23時頃。ブリットを降りた時に火事の話を思い出したが、周囲は真っ暗でどこが燃えたのか確かめようはない。アパートはいつもどおりの様子で各部屋には灯りが見えていた。
やっぱり大したことはなかったのか。しかし共用廊下に踏み込むと、ちょうど俺の部屋の真下になる部屋の玄関前に煤まみれの靴で出入りした黒い足跡が残っているのを見つけた。どうやら、何かがあったのは確からしい。
 同じように残業で遅い妻も、気にはしながらどこが燃えたのか全く分からないという。アパートの裏手は休耕田と廃線になった鉄道線路跡を挟んで山が続いているので、恐らくその奥で山火事があったのだろうと勝手に結論づけた。
 
 さて翌朝、つまり昨日の朝出勤時刻。ブリットに乗り込もうとして、その後ろに広がる休耕田の様子がいつもと違うことに気が付いた。
 何だか少し下草が減って視界が開けたような気がする。
 柵越しに休耕田を覗き見て、ようやく火災現場を発見した…。

 こうして2階から見ると意外に広い範囲が燃えていて驚いた。
 この現場の真正面、つまり下の階の部屋に住む家族には男子高校生がいて、ほぼ毎日授業が終わるとすぐに友達が集まって騒いでいる。
 その中の誰かがタバコの吸い殻でも投げ捨てたか?。
 もう少し火の手が広がったらアパートにも延焼したのは間違いない。