自賠責。

 骨折で入院されている患者の一人がどうも交通事故による受傷らしいが、医事担当者が健康保険で請求書を作成しているので適切な請求先を確認せよとのボスからの指示。前自賠責担当のI君に尋ねると、通常受傷した患者の入院先へ必ず連絡するはずの保険会社からは特に連絡を聞いた覚えはないとのこと。ボスによると、加害者はタクシーで、その患者の親族がそのタクシー会社に代わりに支払うようにと請求書を持ち込んでいるが未収になっているという。
 我々が知らないところで本人間の示談が済んでおり、加害者側が自賠責を使わず被害者の請求書を立替払いする約束になっていることもないわけではないが、一般的に交通事故での受傷は意外に長期間の療養が必要になることがあり、想定を超えた医療費が請求される恐れがある。特に常に事故の危険があるタクシー業界であれば自賠責を使わない理由はなさそうだ。
 カルテを見ると転倒・骨折して入院後1WKほど経過した頃、患者が思い出したように、そういえば先日歩行中にタクシーにぶつけられて…と言った事が書かれている。ぶつけた部位は今回入院理由と同じ側の足だったようだが、Drの記載では交通事故との因果関係は薄いのでは…とやや曖昧な書き方である。
 権限があれば端末のあるところでいつでも閲覧できる電子カルテは便利だが、Drが気になる記載を緩急をつけて記載する紙カルテに比べると、入力内容の表示が平坦で大人しい電子カルテはある意味で読みにくい。
 本当に事故があったなら保険会社はタクシー会社から確実に連絡を受けているはずなので、病院側へ連絡がないということは何か揉め事が起きているのかも知れない。
 保険会社へ連絡してみた。すると担当者曰く、事故の発生と被害者がその後入院したことは把握しており、被害者側との交渉で現時点では事故との因果関係を断定できないため、もし自賠責で支払いが決まった場合は一括して入金するのでそれまでの間は患者自身の負担で立替払いするよう依頼してあるという。
 となると、患者本人はともかく家族はそれに納得せず、タクシー会社による支払いを要求しているということか。
 担当者は近日中に確定診断書を依頼するので、その回答を見て支払い可否を決定するとのこと。