捨てられないもの。

 日曜の深夜、アパートに帰り着くと部屋がすっかり片付いていた。
 最近部屋の荷物(主に俺のPC・カメラ機材とその資料)が増え過ぎていて妻がしびれを切らしたらしい。
 捨ててよさそうなものはほぼ全て捨てられてしまい、一方で要・不要を判断しかねたものがテーブルに並べられていた。
 一目見た瞬間、俺の体が硬直した。
 『ねぇ、あなたの椅子の後ろから出てきたこの電卓っているの?』
 「ああ、デジモノステーションて雑誌の付録みたいだねぇ」
 『ふーん…「まどか☆マギカ・オリジナルソーラー電卓」だって』
 「へぇ、よくわからないけど何かのキャラクターグッズなのかね」
 『「まどか☆マギカ」って聞き覚えあるんだけど。あなたのHDDレコーダに時々録画されてるのよね』
 「前にガンダム録画してたから、アニメつながりで自動録画されたんじゃない?よく知らないや」
 知らないわけがない。普段買わないデジモノステーションを、その特典目当てに買ってきたのだから。
 『……』
 「…あの、あれだ、職場のZ君とか、そういうの好きそうな友達にでもあげることにする」
 すまぬZ君。君が萌ヲタを公言していてくれたおかげだ。
 『…そうね。電卓はIBMロゴ入りのとかいくつもあるしね』
 「ははは、安物っぽいしねぇ」
 『……』
 「ハハハハハ」
 『じゃあ、これは?何かの飲み物のオマケっぽい伊藤園の「けいおん!オリジナルミニフィギュア」は何なの?いっぱいあるし』
 「あっ、あうあう、それは昼休みに買って飲んでたお茶のオマケが溜まっちゃってねぇ、職場に置いといても何だから持って帰ってきたんだよねぇ。一応お金で買ったもののオマケだし捨てるのもどうかなぁと思ったりなんかして」
 『……お茶。あなた、いつもいろはすのリンゴ味買ってたじゃない。いつからお茶に変えたの』
 「あー、あの、甘いのばかりだと体に悪いかと思ってちょっとお茶にしてたんだk」
 『お茶なら沸かしてボトルに入れてけばいいのに何でわざわざ買ったりするの、お金もったいないじゃない』
 「毎晩、お茶沸かすのも面倒かと思ったんだけども」
 『ヤカンにお茶入れて3分沸かすだけじゃない。ものぐさすぎるのよあなた』
 「そ、そうかもしれませんねハハハハこれからは作るようにします」
 ものぐさ扱いならまだ幸運であろう。
 しかしかなり言い訳に困るものを妻は引っ張りだしてきた。
 『こっちは?この初音ミクと、よく似た赤い女の子の扇子はどうしたの?』
 「ブフォッ。ちょっとよく覚えてないけどゲーセンでたまたま取れちゃった景品みたいだけど、興味ないから放ったらかしだったわ」
 放ったらかしというか、絶対ばれないはずの、普段使っていない1室の隅に置いたカメラ機材保管庫に隠しておいたのだが。
 『あのカメラのケース置いた部屋、ガラクタ積み上がってひどいから半分片付けたけど、まだ終らないし。来週から全部掃除するから』
 「あ、いや…いるものとか多いから俺のは何も捨てないd」
 『要るか要らないか確認しながら処分すればいいじゃない。大体残ったガラクタ全部あなたのものなのに、何も捨てるなって言い出したらひとつも片付かないじゃない』
 「ぐぬぬ…」