出発の日。

 出発当日は職場で作業停電があるため、システム始動の立会いで出発は私だけ少し遅れたものの定刻どおり空港着。出発ロビーに上がると酒癖の悪さで有名な人事担当N氏が既に酒瓶を2本空けた状態で座り込んでいた。N氏は昨夜の焼肉パーティの酒が抜けていなかったらしい。表情だけ見るとまともに見えてしまうため始末が悪い。
 飛行中もずっと飲酒していたN氏は、羽田到着後バスに乗り換えてから、私と一緒にバス最後尾に着席して大人しくしだした…と思ったが、ふらふら立ち歩いた挙句になんと課長の隣に座り込み、昨夜自分が受けた若手からの非難鬱憤を垂れ流し始めた。普段は面倒な仕事を部下に押し付け嫌われている課長だが、このN氏の行動を笑ってかわしたところは流石…と思ったが、最後には「やかましい!黙って座っておれ!」と一喝。N氏は最後にバスに酔ったのか軽くゲロを吐いて寝込んでしまった。
 バスは銀座に入り、我々一行は「季楽」なるお店へ昼食に。どうも佐賀県か農協のアンテナショップのような位置付けらしい。佐賀牛レストランと言うだけあってもちろんメインはステーキなわけで、昨夜が焼肉だった私は何となく胃が苦しい。しかし私が頼んだサーロインはそれはそれは素晴らしいもので、とても前夜の大皿3人前2000円のお店とは世界が違うものだった。
 ここでは着席の際喫煙と禁煙で分かれるのだが、気が利く秘書室のK君は既に泥酔しているN氏が喫煙者である事を思い出し、課長など喫煙者とまとめて喫煙席に放り投げてしまった。お陰でタバコに縁のない私達はゆっくりと食事を楽しめたのだが、喫煙席は大変な惨状であったらしい。
 お店を出た我々はそのまま生憎の曇天をついて都内観光に出発。ただし、時間もないので皇居外周をバスに乗ったまま一周し、降車したのは雷門の一箇所だけ。既に陽も落ちかかり気温も肌寒さを通り越して体が震えるほどだったが、仲見世の通りは夥しい観光客でごった返し首都の有名観光地の貫禄を見せ付けられた。
 途中で、まだ全く酔ったままのN氏が単独行動を取ると言い出して、幹事を振り切り行方不明になってしまう事件が発生。幹事は最後に予定表をN氏のスーツにねじ込んだようだが、しばらくするとN氏の携帯も不通になってしまった。課長が一言「子供じゃないんだから放っておけ」。幹事も捜索を放棄。