逮捕。

 ライブドア堀江社長と取締役3名が証券取引法違反(偽計、風説の流布)容疑で逮捕された。
 この件については特にWEB上でものすごい量の意見が飛び交っていると思う。
 いわゆるホリエモン擁護派、さらに株を買って損失を出した巻き添え組、彼らの不幸を喜ぶ連中、その他多くの立場の人々が、ブログや掲示板のコメントを賑わせている。
 私は株式投資はしていないし、ライブドアとはOPERAのライセンス1本とメールアカウント1件の関わりしかないが、感じている事があるので書いてみようと思う。
 WEB上の情報を見ると、堀江社長にシンパシーを感じている人々が想像以上に多い。なぜだろうか。
 逮捕の速報が日本中に流れた後にコメントを出した人々の中には、堀江社長にシンパシーを感じさせる直接・間接の理由となった人物が何人もいたように思う。
 ひとりを挙げれば、経団連奥田会長。彼の率いるトヨタ自動車は、カイゼンを進める中で生産の大部分を国外へ移し、国内工場も従業員のほとんどを期間工や、関連の派遣会社からの派遣社員でまかなっている。さらに、彼自身は日本の産業競争力の維持という名目で外国人労働者の受け入れに積極的で、ここ数年は「移民」という言葉まで出してさまざまな場でアピールしている。
 私は、彼のようなスタイルで人件費圧縮を進める企業が増えた事が、現在の労働不況の大きな要因になっているのではないかと思っている。
 何の事はない。仕事はあるのだ。ただ、雇用側のえり好みを誰かが許しているというだけのことだ。
 仕事をしたければ口入れ屋を通すしかなく、そして安い賃金。頼りない社会保障。薄暗い老後の計画。
 今まで父母から誰もが教えられ、守る限りは生活を保障されると聞かされてきた最低限のルール「真面目に働く」。しかしこのルールを守っても、いや、守りたくてもそのベースになる「保障」が見えないのに、誰がそれを守るのか。
 共通の保障が消えていく中、替わりに「自己責任」という言葉が台頭し、頼れるのは自分の力だけという社会になりつつある。しかし「保障」を前提にした生き方を教えられて社会という大海に出た人々が、全員その波を泳ぎきれるだろうか。そもそも泳ぐ方向すら示されていない。どこまで泳げば、何があるのかすら。
 溺死する人々も少なくない。年間自殺者数は公表されているだけで3万人前後という信じがたい状況だ。溺れないまでも、浜辺で波がおさまるのをじっと待つ人々も多い。社会は彼らに泳ぎ方を教えるべきなのに放置し「ひきこもり」や「ニート」と呼び、とにかく水へ放り込む。立派なボートも浮かんでいるが乗船定員は極少ない。
 そんな中現れたのが堀江社長だった。保障を前提としない自己責任での生き方のモデルケース。
 彼の見かけの印象からは、生きる力に満ち溢れた野生など感じない。むしろ、その対極にあるオタク志考、社交的行動を避ける内向的な性格、生活スタイルであると見えた。その彼が会社というイカダを組み上げ、やがて市場を戦場と化し、株価を武器にして社会という大海に飛び出したのだ。
 泳ぎにくさを感じつつ生きてきた人々には彼のその行動がどれだけ力強く感じられただろうか。皆、彼と同じように波を破り、突破し、かつて真面目に働くというルールで得られたのと同じ程度の対価を得て満足したいと願った人々ではなかったか。
 彼らはそのシンパに対して明確な数値でその生き方の可能性を示した。株価という数値で。
 誰もが可能性にシンクロできる事も、シンパシーを強める理由になっただろう。証券会社に口座を開き、ライブドアグループの株券を購入すれば彼らのイカダに乗れた。そしてそれはその人の経済的な助けにもなったし、さらに堀江社長達の遠泳の燃料にもなった。
 堀江社長達がイカダに乗り込んできた人々をどう思っていたのかはわからない。力強い同行者と思っていたかもしれないし、逆に憐れ蔑んでいたかもしれない。
 だが今の社会で、一体他の誰がこのような明確なカタチを見せてくれるのだろうか。
 他の人々もそのカタチを利用した。自由民主党が非公認ながら後援する選挙の候補者としたし、マスコミは視聴率を得るための客寄せに使った。

 堀江社長達は違法行為によって加速を助けていたため、その事で指弾を浴びる結果となった。社会的なタテマエで言えば違法行為は許されないし、その罰は受けなければならない。
 果たしてこの暴風の海にイカダを浮かべ、溺れかけた人々に一時でも希望を与えた事は罪だったのだろうか。罪を問われるのはその手段であるだろうが、では、海を荒らし、そこに浮かぶ人々を放置する事は罪ではないのだろうか。
 イカダが沈む事により、新たに溺れる人々がいる。
 掴まる物を間違えたのだと叩くのはとても簡単だ。

 もうひとつ、真偽不明だが、今回の結末とは朝鮮系資本の浸透に対する日本の対抗策だったという話も聞こえてくる。ライブドアの資本増強に韓国企業が協力していたというものだ。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/84/koubou005.htm
>宮内は何度も香港に出かけ、英系金融機関から3000億円の資金調達にメドをつけた。別の担当者は韓国系財閥から2000億円、欧米系金融機関から1000億円の資金を手当てし、最大6000億円もの資金が集まりつつあった。

 これだけのムーブメントが何の背景もなしに発生するというのは確かに考えにくい。しかし全ての真相が明らかになるのは、遠い将来の事だろう。