交通事故。

 実に気だるい午後だった。
 前夜までの残業もどうやら終り、今日は陽のあるうちに帰れそうだ…とぼんやりと思っていた。
 いつもDVDをお借りする先輩姐は、午後から時間休を申請して帰宅していった。他の職員もここ数日の混雑が去った静かな職場で、ともすればぼんやりとデスクワークに没頭していた。
 そこへ総務から1本のTELが入った。なんと先輩姐のご主人が交通事故に遭ったという連絡だった。課内騒然。
 慌てて携帯で呼び出すと「あー。今聞いた。もう病院向かってるから」とののんきな返事が返ってきた。
 事故現場は近くらしい。救急車のサイレンも聞こえているので、ボスババァ達が連れ立って様子を見に行った。
 そのうち一人が戻ってきた。「大変。顔とか血だらけで、もう私足が震えて…」
 事故の状況も断片的に伝わってきたのだが、軽4を運転していた先輩姐のご主人が何らかの理由で観光バスと正面衝突したというではないか。
 先輩姐は結婚してまだ2年。万が一のことがあれば…と職場に残る同僚達も真っ青になった。
 病院に搬送されたご主人は、幸いにも額に切り傷を負っただけで済み、入院もせずに帰宅できるほどの軽症だったそうだ。ただし乗っていた軽4はバスのフロントに滑り込む形で大破しており、状況を見ると大変な幸運だったことは間違いない。
 相手のバスは近所で行われていた大きなイベントの参加者を乗せたバスコンボイの1台で、乗客には全く怪我がなかったことも僥倖であった。
 先輩姐は「あんなケガなんて大した事ない!あのバカ、仕事の合間にパチンコでも行こうとしたに決まってる!自業自得じゃん!」と職場に戻ってからいきまいていたが、その言葉とは裏腹に表情は安堵の色一色だった。
 その後はお決まりの「みんな安全運転に徹しましょう」というボスババァからの訓示があったが、巡航速度がやや高めと評判の私が吊るし上げられるハメに。