自己中。

 土曜の昼から愛知県に行って来た。
 土日の残業が急遽なくなったので、愛地球博を見るならこの週末しかないと思い、0泊3日での突撃を行う事にした。
 本当は金曜の夜から出発して、土曜の朝から愛地球博に行くつもりだったのだが、ある同行者のせいで全てご破算になった。
 そうだ。
 愛知県まで行き、名古屋から四日市あたりを車で8時間走り回った挙句、万博会場は見る事すらできなかったのだ。
 私が想定していた当初の計画では、先に述べたように自宅を金曜の夜出発し、土曜の朝までにシャトルバス乗り場に到着、土曜一日を万博会場で過ごし、その深夜から日曜朝にかけて帰宅するというものだ。
 既に愛知県内の宿は全て予約で埋まっているので当日宿泊が困難である事、この歳なので長距離走ってからすぐ仕事に行くのは正直辛いので、金曜の残業をむりやりキャンセルしてようやく作ったプランだった。
 さすがに私一人では運転も心もとない。そう思って友達に連絡を取っては見たが、みな急な話でもあり無理だという。
 しょうがないから一人で行くか…あきらめかけていたが、運良くAとBの同行者が2名見つかった。
 しかし、このBがとんでもない自己中野郎であったとは、私もまだ知る由もなかった。

 同行の快諾を得た私は早速AとBに計画を説明した。
 なんてことはない、若さと体力まかせで突っ走ればいいという話だ。何も難しい事はない。
 Aは昔からの友達で、車の免許取ってから今まで何度も同じように適当旅行してきた仲だ。今回のも「何だよいつまで若いつもりなんだよw」と苦笑しながらもいそいそと支度を始めてくれた。支度といっても洗面用具をポケットに突っ込むだけだ。それだけでいい。
 BはAの知り合いで、私とはローカル掲示板で何度か話した程度だ。私がAに電話した時にたまたま居合わせたそうで、あまり車で出歩かないのでぜひ適当旅行とやらに参加してみたいと意欲バリバリだ。
 そんなに気負わなくてもいいんですよ、行程はキツキツ、中はマターリが基本っす、と言っておく。
 が、しかし。
 私が金曜の夜に出発したいと言っているのに、Bは夜走るのは危ないからと土曜朝出発に変更してしまった。足も長距離移動に備えて私が父親のマーク2を確保したのに、デカイ車は運転できない燃費が悪い、誰にでも運転しやすい軽4がよいとゴネ、自分の持ってきたM/Tの軽4で行く事にしてしまった。
 まぁ我々は後から疲れず普通に仕事に行ければ…というのを前提に計画を立ててはいたが、こういうことをした事がない人からすればちょっと無茶に見えるのかも知れないし、出発前から不安をもたれるのもこちらも不本意だから…とBの提案を飲んだ。
 往路はBの運転だった。しかし道中何か珍しいものを見つけるとすぐ寄り道する。さっきの道の駅で茶を飲んだと思ったら次のサービスエリアではトイレに行き、土産が欲しいと言っては買い物をして、気がつけば土曜日はあっさりと潰れていた。
 日曜日の午後、せめて暗くなる前に帰りたい私とAは、なるべく早めに会場入りするため会場近辺の駐車場でこまめに移動しながら仮眠しようと提案するが、Bはどうしても宿で泊まりたい、車中泊など考えられないと喚きやがる。やむなく名古屋駅から目に入る全てのホテルに問い合わせを入れるが当たり前のように全館満室だ。聞くだけ恥ずかしい。
 それでもホテルがいい、民宿でもいいとぶつぶつ言い続けるB。
 やむなく駅近辺の居酒屋で夜食を食べ、八日市方面まで足を伸ばす事にした。繁華街に直接乗り入れたいところだったが、Bは「こんな人ごみの多いところは怖くて運転できない」といって拒否。代わりに私が運転することに。
 食事の後、IC近辺のラブホ村まで戻るべきだと言ったが、Bは「何度も同じ道を往復する事になるので嫌だ」という。
 港湾エリアを抜けて走り続ける我々。数時間走り続けるが宿など何も見つからない。市街地から外れてだんだんと不穏な空気が流れ出す車内。タダでさえマニュアル操作なのに直進安定性がなくひどくフラフラするステアを握りっぱなしの私はイライラが募っていた。
 そのうち喚きが止まり、ふと振り返ると後部座席のBは眠っていた。…時刻は午前3時。
 キレた私とBは、すぐに名古屋市内に取って返し、IC近くのラブホだまりでようやく部屋を確保した後、ガレージに奴を放置したまま部屋に上がり込んだ。
 無駄に疲れ、泥人形のように薄汚れた床に転がる我々に、もう万博会場に向かう気力は残っていなかった。
 翌朝、精算してガレージに降りても、Bはまだ爆睡していた。走り出してラブホだまりを抜ける頃ようやく目を覚まし、ぬけぬけと言った。
「何だよ、こんなにホテルあるじゃん?なのになんで車中泊すんの?疲れるだけだし」
 誰も返事はしなかった。

 実は泊まったラブホは実にネタの宝庫だったのだが、これはまた別のところで紹介しよう。